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マイ・バック・ページ

2011年1月31日

今年に入り、俳優の水嶋ヒロの作家デビュー作品「KAGEROU」をはじめ、〈いのち〉をテーマとした書籍が話題となっています。そうしたなかで、今回は最近再刊されたこの本に注目したいと思います。

川本三郎作『マイバックページ- ある60年代の物語』(平凡社)。

本書は、騒乱の60年代末に生きた武骨で真摯なジャーナリストの自伝的評論ですが、同時に、若き日の著者が体験した「時代の回想録」でもあり、東大安田講堂事件やベトナム戦争など多くの事件が活写されています。

そのなかで、私が最も関心をもって読んだのが、タレント保倉幸恵さんについて取り上げられた一節です。保倉さんは、当時清純派として、「週刊朝日」の表紙モデルを飾るなど、約5年間にわたり各誌のグラビアに掲載される人気のタレントでした。しかし、人気絶頂のさなか、彼女は22歳の夏、飛び込み自殺を選んだのです。

彼女がなぜ死を選んだのか、その理由は、古くからの付き合いがあった記者たちも知ることができなかったと著者は語ります。そもそも彼女は、自宅の住所なども親しい人に知らせたことがないなど、必ずしも人付き合いが良かったわけではなかったようです。著者の川本氏は、そうした保倉さんについて、「彼女には居場所がなかった」と述べています。もしかすると、居場所も、将来への希望も得られず、ただ抱えきれぬ苦しみを一人で背負いこんでいたのかもしれません。

現代でも年間自殺者3万人と言われていますが、その背後には、もっと多くの自殺念慮を抱えておられる方の存在があります。一人で悩みを抱え込んでいる方に、少しの間でも「居場所」と感じてもらえるような場づくりがきわめて重要でしょう。

相談センターがそうした支援の一端を担えるように、今後の取り組みへの決意を新たにしました。